高血圧について知る
お役立ち情報
高血圧と糖尿病は合併しやすいって本当?

高血圧と糖尿病の深い関係性

高血圧は日本で患者数が一番多い病気です。また糖尿病も内科で診る病気の中で三番目に多く、年々増え続けています*1。これらの2つの病気は、肥満、喫煙、運動不足などといった共通の原因によって引き起こされます。
このようにもともとどちらも患者数が多い上に、病気に至る原因に共通点があるため合併している患者さんが多いことが知られています。高血圧に糖尿病が合併している場合、心疾患や脳卒中などの深刻な病気を引き起こすリスクが高まることが知られています。
しかし、高血圧、そして糖尿病の初期には症状がほとんどないため、両者共に健康診断で指摘されることが多い病気となります。
より重い病気にならないために「高血圧」と「糖尿病」はより早い段階からしっかり治療・管理することが大切です。
今回は、糖尿病と高血圧の関係について解説します。

目次
この記事の監修医師
医療法人社団 野村医院 理事長
野村 和至 先生

高血圧と糖尿病について

まずは、それぞれの病気について簡単に紹介します。
高血圧はその文字の通り、血圧が高い状態を指します。診察時の収縮期血圧(上の血圧)が140mmHg以上もしくは拡張期血圧(下の血圧)が90mmHg以上の状態を示した場合や家庭血圧が収縮期血圧(上の血圧)135mmHg以上もしくは拡張期血圧(下の血圧)が85mmHg以上の状態を示した場合に診断されます。また、収縮期血圧(上の血圧)が130mmHg以上もしくは拡張期血圧(下の血圧)が80mmHg以上の状態を示した場合や家庭血圧が収縮期血圧(上の血圧)125mmHg以上もしくは拡張期血圧(下の血圧)が75mmHg以上の状態を示した場合は高値血圧と呼ばれ、生活習慣の是正が必要となり、さらに脳心血管病のリスクが高い場合には薬物治療の適応となることがあります*2

糖尿病は、1型糖尿病と生活習慣の乱れ等で発症する2型糖尿病があります。今回は2型糖尿病について触れていきます。2型糖尿病は血液中の血糖を下げるインスリンというホルモンがうまく作れなかったり、機能しなくなることによって血糖が高い状態(高血糖)が続く病気です。診断にはいくつかの検査項目を利用しますが、そのうち主な診断基準の項目として血糖値の値と過去1〜2ヶ月間の平均的な血糖レベルがわかるHbA1c(ヘモグロビン エー ワンシー)の値で判断していきます。

  1. 空腹時血糖値(空腹時の血糖値)が126mg/dL以上もしくは随時血糖値(食事時間とは無関係に測定した血糖値)が200mg/dL以上
  2. HbA1c(ヘモグロビン エー ワンシー)が6.5%以上

上記いずれかに当てはまる場合を糖尿病型と判定します。この糖尿病型が持続的に確認された場合もしくは最初から両方が当てはまった場合に糖尿病と診断されます。また、空腹時血糖値が110mg/dL以上もしくは随時血糖値が140mg/dL以上、HbA1c(ヘモグロビン エー ワンシー)が6.0%以上では境界型糖尿病、もしくは糖尿病の疑いがあり、より詳しい検査や生活習慣の是正が必要となります*3

高血圧と糖尿病との関係性

高血圧や糖尿病になってしまう原因として、いくつか共通の生活習慣の乱れがあります。これらの生活習慣の乱れが一つもしくは複数が日常的に続くと、高血圧や糖尿病になってしまうリスクが上がります。具体的には、以下のことが関わっています。

  1. 高塩分の食事を摂る : 塩分の多い食事を摂り続けると、高血圧のリスクが上がります。
  2. 喫煙 : たばこを吸うことは、高血圧と糖尿病のリスクが上がります。
  3. 肥満であること : 過度の肥満は、高血圧と糖尿病になるリスクが上がります。
  4. 運動不足 : 運動をあまりしないことは、高血圧と糖尿病になるリスクが上がります。
  5. 過度なアルコール摂取 : 過度なアルコール摂取は、高血圧や糖尿病のリスクを上げる可能性があります。

高血圧と糖尿病になる原因がいくつか共通していることから、これらの病気は合併しやすいことが知られています。高血圧と糖尿病は単独でも血管が硬くなってしまう動脈硬化を進行させますが、これらの危険因子が重なると、より動脈硬化を進行させてしまうため、より厳格な治療が必要なのです。さらに、高血圧と糖尿病は、心疾患や脳卒中などの深刻な病気を引き起こす「メタボリックシンドローム」と呼ばれる状態に関連しています。

メタボリックシンドロームは、内臓脂肪の蓄積に加えて高値血圧、高血糖、脂質代謝異常の問題が同時に2つ以上存在する状態を指します。これらの病気が共存することでより深刻な病気を引き起こす可能性があるため、生活習慣の是正を中心とした治療が必要となります。

高血圧と糖尿病はどれくらい合併しているの?

先ほど高血圧と糖尿病は合併しやすいことについて触れましたが、実際にどれくらい合併しているのかについて紹介します。

まず日本国内での高血圧と糖尿病を患っている人数は、厚生労働省から発表された「令和2年患者調査」によれば、高血圧の患者数は約1503万人、糖尿病患者数は約370万人であり、内科で診る病気の第1位と第3位でいずれも年々増えています*1。これは現代の食事や生活習慣が大きな影響を与えていると考えられます。そこで両病気の合併率ですが、糖尿病患者での高血圧の合併率は非糖尿病患者の約2倍高く、また高血圧患者での糖尿病の発症率は、高血圧でない人と比べて約2~3倍高いことがわかっています*2

糖尿病を合併している高血圧患者の血圧管理の重要性

糖尿病の方は、糖尿病でない方と比べて脳卒中(脳梗塞・脳出血)や冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)による死亡率が3.7倍高いと報告されています。また、血圧値が高いほど死亡リスクが高くなることが分かっています*3。日本人での糖尿病の合併症予防効果を検討した研究では、血圧値を120/75mmHg未満に設定した強化療法群の方が、130/80mmHg未満の従来療法群より脳卒中は58%、冠動脈疾患は14%減少したと報告されました。この結果より、より厳格な血圧のコントロール、つまり血圧を下げることによってこれらの病気の発症を有意に減少させると考えられています*2。このため、糖尿病を合併している人では、厳格な血圧コントロールが必要です。

糖尿病を合併している場合の血圧管理

糖尿病を合併している方の降圧目標は、診察室血圧で130/80mmHg未満、家庭血圧で125/75mmHg未満です。一般的には、この降圧目標を守った治療が勧められます。しかし、この降圧目標は病状により変更され、絶対的なものではありません。すでに末梢動脈疾患や冠動脈疾患などの動脈硬化性の疾患を合併している場合には病状に応じて変更されることもあります。ご自身の治療目標を確認するためには、まず医療機関を受診し、主治医と相談しながら高血圧の治療を受けることが大切です。

また、糖尿病と高血圧を合併した方の食事の注意点としては、1日6g以下への減塩、また標準体重を基本とした適切なカロリー摂取が重要です。

運動療法としては、特に有酸素運動が勧められます。ややきついと感じる程度の速歩や軽いジョギングなどの運動を1回につき少なくとも10分以上持続し、合計して1日40分以上行うことが推奨されています*2。このような食事、運動療法を日常生活に取り入れ、継続することで糖尿病・高血圧の両方の病気とも改善が期待できるのです。

まとめ

高血圧と糖尿病は原因が複数共通しているため、合併しやすい病気です。また、これらの2つの病気はともに動脈硬化の危険因子であり、合併することでより動脈硬化が進行し、脳卒中(脳梗塞・脳出血)や冠動脈疾患(心筋梗塞・狭心症)が起こりやすくなります。動脈硬化を進行させないためにも、血圧値と血糖値のより厳格なコントロールが必要となります。これらの2つの病気が合併している場合は、片方だけではなく、両方とも一緒にコントロールすることで心筋梗塞などの深刻な病気の発症を予防できます。

両方の病気ともにより早い段階から生活習慣の是正や治療を行うことで重い病気の予防が可能となります。しかし、高血圧、糖尿病初期には症状がほとんどないため、病気がなくても定期的な健康診断を受けて、異常が出た場合には早い段階で治療をはじめることが重要です。また、高血圧がある方は糖尿病の発症に気を付け、糖尿病がある方は高血圧の発症に気を付けましょう。最後に、「高血圧や糖尿病なんて、普段暮らしていて何にも困るところはないからほっといても大丈夫」なんて思わずに、きちんと受診し医師に相談しましょう。

参考資料

*1 日本生活習慣病予防協会.最新の患者調査(厚生労働省)より、国民の健康状態について分析.
https://seikatsusyukanbyo.com/calendar/Table01.pdf

*2 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会. 高血圧治療ガイドライン2019. ライフサイエンス出版株式会社. 2019. 124p. 978-4-89775-386-7 C3047
https://www.jpnsh.jp/data/jsh2019/JSH2019_hp.pdf

*3 日本糖尿病学会糖尿病診療ガイドライン2019. 南江堂. 2019. 446p. 978-4-524-24148-4
http://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4

お役立ち情報一覧

知っておきたい、災害時の血圧管理 避難生活や防災で気を付けたいポイント

知っておきたい、災害時の血圧管理 避難生活や防災で気を付けたいポイント

災害時には、被災前に良好であった血圧が上昇することが報告されています。それは普段飲んでいる薬が持ち出せなかったなどの薬不足にも起因しますが、それだけでなく、震災後の各種ストレスや環境も大きな要因となり得ることがわかっています。

詳しく見る
高血圧とデジタル医療

高血圧とデジタル医療

「高血圧」と「デジタル」一見関わりがないようで、実は様々な面でこの二つは現在深く結びついています。ここでは、高血圧とデジタル医療について解説していきます。

詳しく見る
高血圧と糖尿病は合併しやすいって本当?高血圧と糖尿病の深い関係性

高血圧と糖尿病は合併しやすいって本当?高血圧と糖尿病の深い関係性

高血圧は日本で患者数が一番多い病気です。また糖尿病も内科で診る病気の中で三番目に多く、年々増え続けています。これらの2つの病気は、肥満、喫煙、運動不足などといった共通の原因によって引き起こされます。

詳しく見る
高血圧の方必見!入浴するときの注意点​ ​​入浴前と風呂上がり時

高血圧の方必見!入浴するときの注意点​ ​​入浴前と風呂上がり時

入浴は体を清潔にするだけではなく、日々の疲れを癒すことで、好きな方も多いかもしれません。しかし、特に寒い冬場の入浴は急激な体温の変化で血圧が大きく上下に変動し、風呂場で失神したり、不整脈や心筋梗塞などを起こしてしまった方をニュースやテレビ番組で耳にした方もいるかもしれません。

詳しく見る
血圧を下げる可能性が報告されている5つの飲み物

血圧を下げる可能性が報告されている5つの飲み物

血圧を下げるには、食生活の改善が大切です。血圧を下げるための食生活の改善というと「減塩」を思い浮かべる方も多いと思いますが、実は毎日飲んでいる飲み物にも気をつける必要があります。

詳しく見る
高血圧とコーヒーの意外な関係 コーヒー飲むと血圧は上がるの?

高血圧とコーヒーの意外な関係 コーヒー飲むと血圧は上がるの?

「コーヒー(珈琲)は血圧を上げる原因」と言われることがあり、コーヒーを飲むことを控えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。この記事では、コーヒーと血圧の関係について詳しく解説します。​

詳しく見る
高血圧はオンライン診療と相性が良い?

高血圧はオンライン診療と相性が良い?

この記事では、オンライン診療のメリットや気をつけるべき点、一般的な利用の流れ、オンライン診療の費用について解説します。また、高血圧はオンライン診療と相性が良いのか、についても説明していきます。

詳しく見る
高血圧と頭痛は関係あるの?

高血圧と頭痛は関係あるの?

血圧が高い時に、軽い頭痛、頭重感などの症状が見られることがありますが、大部分は自覚症状がないことが多いです。しかし、高血圧に頭痛を伴う場合、重大な病気が合併していることもあり注意が必要です。高血圧と頭痛の関係について詳しくお話しをします。

詳しく見る
高血圧の予防策を徹底解説!

高血圧の予防策を徹底解説!

高血圧の予防策について、どんなことに気をつければ良いのか、今すぐ始められる取り組み方をご紹介します。

詳しく見る
血圧を下げる方法とは?

血圧を下げる方法とは?

高血圧を指摘された場合、血圧を下げるためにどんなことを意識したらいいのでしょうか?血圧を下げるために日々の生活の中で実践できることを解説します。

詳しく見る
新しい高血圧治療「スマート降圧療法」とは?

新しい高血圧治療「スマート降圧療法」とは?

「スマート降圧療法」とは、新しい高血圧治療であり、お医者さんからの指導と、スマートフォンで“生活習慣の改善”に取り組む治療法です。

詳しく見る
高血圧の人の食事で注意すべきことは?

高血圧の人の食事で注意すべきことは?

高血圧の方が毎日の食事で積極的に摂った方が良い食事、減らした方が良い食品などを具体的にご紹介します。

詳しく見る
仮面高血圧とは?

仮面高血圧とは?

仮面高血圧は、診察室で測定した血圧は正常であるにもかかわらず、家庭など診察室の外で測定すると高血圧に該当することが特徴です。仮面高血圧について詳しく解説します。

詳しく見る
白衣高血圧とは?

白衣高血圧とは?

普段の血圧は低いのにもかかわらず、病院の診察室で測ると血圧が上がるという方がいらっしゃいます。白衣高血圧の概要やリスク、対策について詳しく解説します。

詳しく見る
高血圧における運動療法の効果とは?

高血圧における運動療法の効果とは?

高血圧の治療の基本は生活習慣の改善です。その一環として「運動療法」があります。高血圧における運動効果と運動のポイント、高血圧におすすめの運動の種類まで解説します。

詳しく見る
高血圧と動脈硬化の関係について

高血圧と動脈硬化の関係について

高血圧が要因で動脈硬化が起こることで血管に負担がかかり、さまざまな病気を引き起こします。生活習慣を見直したり、高血圧の治療を行うことで、予防や進行を抑えることが可能です。

詳しく見る
高血圧と診断された場合に控えた方が良い食べ物とは

高血圧と診断された場合に控えた方が良い食べ物とは

血圧が高いと食生活でも注意が必要になります。塩分が高いものなど、血圧が高い場合に摂取を控えるべき食べ物についてご紹介します。

詳しく見る
高血圧によるリスクを解説!

高血圧によるリスクを解説!

自覚症状がなかったり普段の生活に特段の支障がなかったりすると、高血圧のリスクについてピンとこない人もいるのではないでしょうか?高血圧のリスクについて具体的に紹介します。

詳しく見る
高血圧って遺伝するの?

高血圧って遺伝するの?

高血圧になる原因はさまざまですが、家族に高血圧の人がいて自分も遺伝し発症するのではないかと悩んでいる方も多いようです。高血圧が遺伝するのかどうかについて詳しく解説していきます。

詳しく見る
高血圧とストレスって関係あるの?

高血圧とストレスって関係あるの?

ストレスを感じ自律神経が乱れると、心や身体に不調をきたします。実はそれが、血圧の上昇に深く関係しています。ストレスによって血圧が上昇する理由、対策法などについて解説します。

詳しく見る
高血圧と脳梗塞の関係について

高血圧と脳梗塞の関係について

脳梗塞の原因としてよく高血圧があげられます。本記事では、高血圧と脳梗塞の関係や合併症、予防策などについて詳しく解説します。

詳しく見る
高血圧と心不全は関係あるの?

高血圧と心不全は関係あるの?

心不全はさまざまな病気が原因で引き起こされますが、日常的に血管に大きな負担をかける高血圧が最も重要な原因です。心不全の原因や高血圧との関係、心不全の予防策などについて解説します。

詳しく見る
高血圧のときに気をつけたい塩分

高血圧のときに気をつけたい塩分

なぜ高血圧の予防、治療において塩分の摂りすぎに気をつけるべきなのでしょうか?塩分摂取で血圧が上昇する仕組みや適切な摂取量の目安、気をつけたい食事まで具体的にご紹介します。

詳しく見る
服薬をやめることはできるの?

服薬をやめることはできるの?

「高血圧の薬は降圧できたらやめられるの?」このページでは高血圧と診断された方、すでに高血圧の薬を服薬されている方向けに、薬との付き合い方についてまとめています。

詳しく見る
あなたの測り方は大丈夫?

あなたの測り方は大丈夫?

血圧は、たえず変動をしています。この記事では、家庭血圧の正しい測り方や、測定時の注意点などを具体的にご紹介します。

詳しく見る
拡張期血圧とは?

拡張期血圧とは?

血圧を測定した際、ほとんどの人がその数値を「上の血圧」「下の血圧」と表現していると思います。今回は「下の血圧」(拡張期血圧・最低血圧)に注目して概要や基準などについて解説します。

詳しく見る
収縮期血圧とは?

収縮期血圧とは?

血圧を測定した際、ほとんどの人がその数値を「上の血圧」「下の血圧」と表現していると思います。今回は「上の血圧」(収縮期血圧・最高血圧)に注目して概要や基準などについて解説します。

詳しく見る
高血圧と低血圧

高血圧と低血圧

自分の血圧が高いのか低いのかよくわからない。という方も多いようです。血圧の仕組みや、高血圧や低血圧の定義、基準、原因などについて詳しく解説します。

詳しく見る
下の血圧が高い状態とは?

下の血圧が高い状態とは?

血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の内壁を押す圧力のことです。本記事では、下の血圧が上がる原因やその影響について解説します。

詳しく見る
高血圧、病院を受診するときはどうすればよい?

高血圧、病院を受診するときはどうすればよい?

健康診断等で「血圧が高い」と言われたけど病院を受診すべきか悩んでいませんか?本記事では、健康診断等で高血圧を指摘されたり、血圧が高いと言われた時にどこの病院を受診するべきか、また何科に受診したら良いかについて解説します。

詳しく見る